3.不信

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滝沢さんは、一瞬、悲しげな目を私のそれに合わせた。が、すぐに反らせ、遠くを見るように顔を上げて話を続けた。 「確かに、情報は私たちにも簡単に取り出せた。あなた達は全く無防備で…でも、情報を他社に流していたのは私じゃない」 「えぇ、その頃辞めた人。伊藤さんだっけ。あれは、辞めさせられたのね」 「伊藤さんはすごく腕の良いスパイだった。というか、スパイに向いていたの。緻密で大胆で…上の方、こんな小さな会社にそんな災いが降りかかるなんて思いもよらなかったみたいだった」 「そうね。私にも、あの時の混乱じみた上司たちは異常に感じてた」 もはや、滝沢さんは腕組みも足組みも解いていた。話し出せば、なにやら、私に対してと言うより、なにかに罪の告白でもしているかのような、真摯な表情になっていた。 「早川さんには、管理責任だけでなく、共犯の疑いさえ掛けられたの」 「えっ?」 嘘…なんで? 「そんな!」 「有り得ないですよね。事情を聞かれた時に、本部長が私にそう言ったのよ。私は、絶対に有り得ないって言いました。何度も何度も」 その時の悔しさを思い出したのか、滝沢さんは苦しげに顔を歪ませ、両手を強く握った。 私は言葉をなくした。 「私が…早川さんと仲良くしていたこと、違うのに…伊藤さんと親しくしていたみたいな話にすり変わっていた…早川さんも、私に確認してくださいと言い続けたみたいなのに、結局、誰もがそう思い込んで、私に確認する人なんていなかった」 なんてことなの…そんな乱暴なやり方で早川先輩は…。
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