3.不信

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「ずっとあとになって、辞めた早川さんと会った時に私は初めてそのことを知った。早川さん…懲戒解雇だった…私は、こんな会社のこんな人たちと一緒に働きたくないと思ったけど…早川さんが、辞めないで頑張ってって。松浦さんはそそっかしいからいろいろフォローしてあげて欲しいって、そう言うから…私…」 握った拳に、ポタポタと涙が落ちていた。滝沢さんは下を向いていて表情は伺い知らぬものの、私は彼女の泣き顔が分かった。悔しさと悲しさと、己の不甲斐なさ。 そして、私をフォローしてと言った早川先輩への落胆…滝沢さんは恐らく、私に対して嫉妬をしていたのではなかったか。 「滝沢さん」 私はハンカチを滝沢さんの手に乗せた。一瞬、躊躇しながらも、彼女は受け取ってくれた。 「…我慢して、なんとか勤めてきた。伊藤さんの代わりにみちるが入ってきて、私はある思いがどんどん膨らんでいった。なんでも言いなりのあの子を洗脳して、会社にいつか思い知らせてやると思っていた」 ズズッと鼻をすすって、ハンカチで涙を拭いていた。目が真っ赤で、その顔を見たら、胸を打たれた。 私は、滝沢さんに分からないように、目元を拭った。 「その思いが、いつから私への悪意に変わったの?」 懲戒…歯痒さを押し殺しつつ、少し躊躇い、でも思い切って続けて問いただす。 「…忘年会の会費を抜いて細工をしたのもあなたなんでしょ?」
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