3.不信

19/33
前へ
/310ページ
次へ
「こんなに馬鹿なミスばかりしてるのに、みんなにフォローしてもらって、室長や次長、本部長に気に入られてるあなた。本当に嫌な存在だった。鈴木さんなんて心酔しきっちゃって、芽衣子さん芽衣子さんって」 なるほど、そういうことか…。 「滝沢さんの目にはそんなふうに映っていたんだね。私は私でいつも一杯いっぱいで…みんなからは良く思われてないと思っていた。あや美に関しては不思議としか…」 「だから、あなたに思い知らせてやるって決めた。会費の細工を具体的に考えたのは、みちるのショーツが無くなったことがきっかけだった。こういう、疑心暗鬼が起きている時期なら、いろんな疑惑が錯綜して、私への疑いを逸らせると思ったから」 そろそろ納会が始まる5時に近づいていた。報告書も、本部長が帰るまでに仕上げなければ。 時計をチラッと見た私に、滝沢さんは、話を結論に持っていく。 「私をどうしたいですか?室長か本部長に報告しなけりゃなりませんよね?」 「滝沢さんはどうしたい?嫌いな会社や嫌いな人間のいるところなんでしょう?辞めようと思っていたから、こんな事をしでかしたんじゃない?」 私の読みが当たっていたようで、滝沢さんは唇を噛んだ。 「まぁ、そのつもりです。黙って辞めて、少しでもみんなに迷惑を掛けるつもりでした」 「…そっか」 私は、少しの間、考えてみた。滝沢さんの事をきちんと上に報告するべきかどうか。 もし、彼女への情状酌量から報告を怠れば、私は恐らく飯島課長の元へ送られる…だけのこと。 でも、それでいいのかな? 「ねぇ、滝沢さん。私、このことはオープンにした方がいいような気がするの。本部長のいる社内会議の時に報告して、きちんと早川先輩への疑いを正す。本部長も石頭じゃないし、みんなの前であの事を追及されれば、逃げたりしたらかっこ悪いって気がつくんじゃないかなって」 滝沢さんは暫く考えてから答えた。 「あなたの好きにしたら?主任さん」 滝沢さん、気のせいだろうか。スッキリとしたかのような表情だった。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加