1.厄日

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この階の女子従業員たちは、メーク道具や生理用品の入ったポーチを出社と同時にこの女子トイレに置いておく習慣があった。 三つある手洗い場の鏡の下、10センチ程せり出した壁の一部が物置き台になっていて、色とりどりのポーチが、さながら雑貨屋のポーチ祭りの様相で並ぶ。 これは各々暗黙の了解で、古い社員の間柄では、貸し借りも事後承諾、物々交換が日常化していた。 自分のポーチを手に個室に入り、ショーツを下ろした途端、私は愕然とした。『漏れてる…』 慌ててスカートのお尻を確認するも、そこまでには至ってはなかった。だが、このショーツはもう履けない。 『確か予備のショーツがあったはず…』自分のポーチの中を探るも、見当たらなかった。絶体絶命。 私は、誰もいない事をいい事に、汚れ物もそのままに個室を出て、ポーチの棚に向かう。 誰のがどれという見当はだいたいついていた。とりあえずあや美のから。 が、『…ない』 後はもう適当に順々に開けていき、誰のか分からない若草色で赤や黄色の小花模様が素敵なポーチを手にした。 中身がしっかりとした質感を感じ期待して覗くと、桜色のレースがふんだんに使われたかわいいサニタリーショーツが入っていた。期待以上だった。 「ごめんなさい、ありがとう」 私は呟き、個室に戻った。
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