3.不信

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滝沢さんには、今日のところは、このまま納会の前にこっそり帰宅してもらうことにした。 ミーティングルームを出ると、ドア横の壁に四方堂君がいて、バッチリ全部聞かれていたみたいだった。 「もう大丈夫だから」 ちょっと頬を染めて四方堂君に言った。見守ってくれていたんだと思うと、素直に嬉しかった。 滝沢さんが言っていたことは、あながち的外れとも言えないかもと思えた。 「いろいろありがとね」 私にしては、かなり素直に言えたと思う。四方堂君は、笑顔で、私の頭をポンとやって、オフィスへと歩いて行った。 「ほらね」 私のすぐ後ろで、滝沢さんが薄く笑っていた。 オフィスでは、もう納会の準備が整っていた。私と滝沢さんを見て、あや美とみちるが浮き足立ったが、私は無言のジェスチャーでそれを抑えた。 滝沢さんが手荷物を持って私に近づくと、封の開いた社内封筒を差し出した。 「これ、すみませんでした」 滝沢さんは私に一礼すると、他の誰の方を見ることなく、オフィスを出ていった。派遣社員用の更衣室があるので、みちるに行かせようかと考えたが、今は止めた。 封筒には、感触で中に紙幣が入っているのが分かったので、そのまま四方堂君にこっそり渡して、私はパソコンを立ち上げた。 みんなで乾杯して、賑やかに納会が始まったが、私は必死に報告書を作っていた。 フロアーのどの部署も、それぞれ納会が始まっていて、時折、乱入者も出てくる。
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