3.不信

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みちるとあや美の様子を伺うと、やっぱり元気がなかった。おとなしくチビチビと飲んでいた。四方堂君は、普段通りに見えた。さすがだね。 私はというと、あや美たちとさして変わらず、テンション低め。そろそろ帰りたいような気分でいた。 いつもなら、納会のあとはどこかの居酒屋で飲み直すのだけど、今年はやめておこう。 同僚達の話題に笑いかけながら、そんな事をぼんやり考えていたら、あや美がボソッと耳打ちしてきた。 「みちるから聞いたんだけど、滝沢さん、正社員の話が無くなったそうです。一昨年の春」 「え…そう…」 はぁ…滝沢さんの気持ちを考えると、今夜どころかこの年末年始さえ、冴えないことになりそうな予感がしてきた。全く、ガックリ来ることばかりだ。 あや美とため息混じりにボソボソやっていたら、室長がまたそばに来た。 「松浦さん。鈴木さんに聞いたけど、USB見つかったって?」 あ、それも報告するの忘れてた。うちの室長ってば、影が薄いというか、つい、本部長の威厳に隠れてしまう悲しさがあった。頭髪の薄さは関係なく。 「あ、はい」 「鈴木さんは松浦さんから聞いてくださいと言うんだけど、どこから出てきたの?」 そう、それ、気になるよね…他の人たちもこっちの話題に入ってきていた。 「いや、その事なんですが…事情が立て込んでいまして。年明けにまとめてご報告します。本部長ともそのような約束を取りつけてますので」 本部長と聞けば、それ以上のことを聞かれはしない。 「えぇぇ、なんでなんで?」「どこにあったの?」と、あちこちで不満の声が出ていたけど、ほとんど好奇心が満たされないことへの不満だろうから、私は無視してヘラヘラ笑って誤魔化してやった。
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