3.不信

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この連休だと厳しいかもしれなかったけれど、明日、なんとかして四国に行こうと考えていた。 『早川先輩に会って、実際どういうやり方で退職に追い込まれたのか直接聞きたかった。誰が関わったのか、伊藤さんという人はなにをしでかしたのか…聞きたいことは山ほどある』 時間はないから、事情のうちいくつかでも聞くことができたら、と思っていた。そして、本部長に説明を求める。 やり方が間違っていたことを認めてもらい、できたら、早川先輩の懲戒を自己都合としてもらう。駄目かもしれないけど、きちんと退職金も出して欲しいと掛け合ってみよう。 早川先輩がなんて言うか分からないけど、私は是が非でもそうしてもらいたいのだ。 滝沢さんだって、きっとそういうことがきちんとなっていたら、会社を恨んだりなんかしなかったと思う。 早川先輩の悔しさが分かるから、やはりあの処分が不当だと思えてならないのだ。 高速バスのキャンセル待ちをしながら、私は自分の手荷物をまとめた。 午後になって、両親が戻ってきた。やはり、初売りに寄ってきた様で、なにやら紙袋をたくさん下げてきた。 私は、その買ったものから目を逸らした。さっき私が言った言葉は、両親の胸には届かなかったらしい。 「芽衣子ぉ、ちょっと見てぇ」 母は高いテンションで、紙袋を開け始める。 「これはいい買い物だったわ」「お父さんの、ちょっと派手だったかしらぁ」「芽衣子にはこれ」 母のはしゃぐ声を尻目に、私はリビングをあとにした。
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