3.不信

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部屋に戻り、自分の部屋を見渡した。 母が選んだイエローグリーンのカーテン、オレンジ色のセンターラグ、シングルベッド、小1から使っている木製の机。 造り付けのクローゼットには部屋着と防寒着が数組あるだけ。 それと本棚。本棚には『私』が詰まっていた。 学生時代にお小遣いに困って売り捌いたから、本はほとんど無かったが、何冊か惜しんで取っておいたものがある。 それとフォトブック、卒業アルバム、図鑑、辞書、等等。 小物入れが2つ。小学生から中学生の間に集めて、なんとなく捨てられなかったもの。髪飾りとかビー玉、綺麗な貝殻と石。それに、友達からの手紙の束が入っていた。 たまに読み返すと、クスッと笑ってしまう。好きな人の事とか、友達の噂話や先生に纏わる嘘話が当時流行って、そんな内容が、今は嘘か本当かの見分けがつかない感じになっている。 ポケッとしていたら、四方堂君からライン。新年の挨拶と『早川先輩に会うのか?』との文面。驚く。本当、いい読みしてる。 素早く返信する。婚約者のいる身で、同僚とはいえほかの女に連絡を取るなんて憚ること。なら、即レスすればいいに決まってる。そういうタイミングで送ってくるのだろうから。 『早川先輩、四国のお郷に帰ったそうで、今夜、高速バスに乗れれば今夜発ちます』 そう返信した。四方堂君からもすぐ返信が来た。『本部長に直談判するなら、俺も応援に駆けつけるからな』 四方堂君には頭が下がる。こんなに良くしてくれるくせに、なんで結婚はしてくれないの?とは、言えず。『ありがとう』のスタンプだけ送信した。
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