美しい君に捧げる愛の言葉は、ひとつだけ。

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……おやすみ、さぁ、ぼくの腕のなかで。 ……おやすみ、ほら、ぼくの胸のなかへ。 夜の暗闇を、より一層深く濃くする分厚い布地のカーテンは隙間なく閉ざされ、外部からの僅かな光も通さない。 そう広くない寝室の中は、豆電球の橙色の明かりで満たされ、光が届かない場所に暗闇が落ちている。 腰かけたベッドの真ん中に横たわり、規則的な呼吸をゆっくり深く繰り返している彼女は、その呼吸が証明するようにぐっすりと深い眠りに沈んでいる。 上半身を捻らせ、ベッドを少しでも揺らさないように、そっと程よい弾力のマットレスに手をつき体重をかけていく。自由な片手で彼女の長い髪の中程を掬い上げた。 橙色の照明に色素を抜かれたように、もしくはその橙に染められるかのように、この髪の毛は明るい茶色で、こんなにも薄暗い部屋で自ら微細な光の粒を纏うようだ。 対照的に、暖かく包み込むような橙色の明かりを受けても、彼女の肌は透き通る程に白く、リップクリームを薄く伸ばしただけの桃色の唇がツンと浮かび上がっている。 伏せたまつ毛は黒く長く豊かで、時折ピクピクと動きを見せて、彼女が夢の世界に浸っている事を知らせる。
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