美しい君に捧げる愛の言葉は、ひとつだけ。

3/7
前へ
/7ページ
次へ
……おやすみ、ぼくの眠り姫。 ……おやすみ、永遠の眠り姫。 肌寒くなってきた秋のはじめ。日の入りも早くなり、夜のとばりは急ぎ目に下りてくる。 部屋の温度は十六度から十九度を、湿度は五十%を保つようにエアコンを設定してある。全ては彼女の眠りのため。 真綿の掛け布団に覆われた彼女は、寝返りをうつ事もなくただ、眠る。 「……美しい」 溢した吐息はぼくのもので、囁く言葉は君へ捧げる。 ぼくは彼女の耳元に唇を寄せると、もう一度「君は美しい」と囁いた。 彼女は生涯ぼくのもので、彼女の眠りは生涯ぼくのものだ。 秋が終わり、冬が来て、春が訪れ、夏が迫っても。暑さが去り、木枯らしが舞い、雪の結晶が音を消し、春の花が芽吹いても。 眠り続ける彼女の傍らで、ぼくはただただ感嘆の声を漏らし、ため息に溺れ……最後に涙をこぼす。 美しい君の眠りを、妨げる者はいない。 美しい君を夢から連れ出す者もいない。 美しい君が、ぼくの名を呼ぶ事はない。 毎日、ぼくは眠りにつく前に彼女へ愛を囁く。 「おやすみ、ぼくの眠り姫」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加