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……おやすみ、ぼくの眠り姫。
……おやすみ、永遠の眠り姫。
肌寒くなってきた秋のはじめ。日の入りも早くなり、夜のとばりは急ぎ目に下りてくる。
部屋の温度は十六度から十九度を、湿度は五十%を保つようにエアコンを設定してある。全ては彼女の眠りのため。
真綿の掛け布団に覆われた彼女は、寝返りをうつ事もなくただ、眠る。
「……美しい」
溢した吐息はぼくのもので、囁く言葉は君へ捧げる。
ぼくは彼女の耳元に唇を寄せると、もう一度「君は美しい」と囁いた。
彼女は生涯ぼくのもので、彼女の眠りは生涯ぼくのものだ。
秋が終わり、冬が来て、春が訪れ、夏が迫っても。暑さが去り、木枯らしが舞い、雪の結晶が音を消し、春の花が芽吹いても。
眠り続ける彼女の傍らで、ぼくはただただ感嘆の声を漏らし、ため息に溺れ……最後に涙をこぼす。
美しい君の眠りを、妨げる者はいない。
美しい君を夢から連れ出す者もいない。
美しい君が、ぼくの名を呼ぶ事はない。
毎日、ぼくは眠りにつく前に彼女へ愛を囁く。
「おやすみ、ぼくの眠り姫」
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