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豆電球に照らされた茶色の髪の毛が、いつしか本当に色素が抜けていたとしても。
透き通るほどに白い肌に、ぬくもりを感じなくなっていても。桃色の唇から血の気が消え、張りがなくなり、リップクリームを塗ってもカサつき、ひび割れ……それでも。
夢を追う彼女の、黒く長く豊かなまつ毛が震えをやめ、まぶたが張り付き、二度と開く事がなくなっていても。
いつ……いつだったのか。深い深い眠りを示す、彼女の細やかな寝息が、ピタリと止まったのは。
彼女の眠りは、ぼくのものだ。
いつの間に、彼女は夢の世界に囚われてしまったのだろう。
彼女の夢は、ぼくを幸せにするために存在していたのに。
取り戻さなくては。
彼女の夢を、彼女の眠りを……ぼくのために。
「美しい、君は……いつまでも眠れ。ぼくのために」
長い髪を撫で、痩せこけた頬を指で滑り、真綿の掛け布団を持ち上げ、ぼくは彼女のとなりに体を滑り込ませた。
彼女から分泌されていたであろう様々なものを、布団もベッドのマットレスも吸い付くしていた。
こうして横になるだけで、君に包み込まれるような、安心感さえあった。
「おやすみ」
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