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突然訪れたわたしの眠りは、あまりに一方的で、暴力的で……優しかった。
大学の講義を終えて友達との食事のあと、分かれ道で一人になったその日の夜空は、満天の星空だった。
「君の美しさは、永遠にぼくのものだ」
背後から羽交い締めにされ、口と鼻に変なにおいのする布を当てられ気を失う一瞬。
ここしばらく喧嘩していた両親の顔が浮かび、消えた。
彼氏との関係もうまくいかず、友達に愚痴る日々で、次第に付き合ってくれる友達も減った。
夜、眠っている時だけは心が穏やかだった。
楽しい夢はわたしを甘やかし、辛い事も苦しい事もない。永遠に来ない朝をどれだけ望んだか、たとえこの体が朽ち果てても。
起きてる時間に未来はなくて、夢の世界に永遠がある。
わたしの幸せは、ここにある。
「おやすみ、ぼくの眠り姫」
耳元に囁く男の声が、あまりに優しく夢へ誘うから。
起きている世界に、自分に、太陽の光に、絶望して、落胆して、打ち捨てて。
「おやすみ、なさい」
わたしは喜んで、その眠りを受け入れた。
……失礼します。
律儀な男の、律儀なノックを聞くまでは。
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