美しい君に捧げる愛の言葉は、ひとつだけ。

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数日後、僕の事務所に先輩が訪ねてきた。 「おーい。先日の"眠り姫"DNA鑑定出たぞー」 茶封筒を顔の横でひらつかせる先輩の無精髭が濃かった。とりあえず見なかった事にして、デスクから出る。 「毎度の事ですが、僕は死体にも彼らの身元にも興味なんてありませんよ」 僕が知りたいのは、十数年に渡って眠り続けた彼女の、心。 へいへいといかにも"耳タコ"な先輩がデスクに封筒を置く。そして懐から小さな小瓶を取り出した。 「彼女の遺体からかなりの量の……まぁ、所謂睡眠薬だな。長い間飲まされ続け、眠り続けたと言う事らしい。二人共に栄養失調だと」 「睡眠薬くらいのもので、人って死ぬんですかね」 「用法、用量守ってりゃ死なねぇよ」 彼が望んで求めた彼女の眠りは、結果としてこれだったのだろうか。エアコンの設定は、眠るのに最適とされる室温、湿度だったらしい。 眠りを維持しようとしたのか。彼が執着したのは彼女ではなく、彼女の眠り。つまりは寝顔。 「なんにしても、きっと美しい女性だったんだろうなぁ」 永遠の眠り姫とはまだ……お付き合いは出来ない。 僕は起きてるから、生きてるから。
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