囁き声

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 一段と大きく『地球の囁き声』が聞こえるようになってきた。  明日、この星は無くなる。  それは誰も疑わない未来。それは科学が明確に指し示した無慈悲な将来。  その現実から、誰も逃れることができない。ただ祈り、ただただその瞬間を待つことしかできない。  さながら、シェイクスピアの綴る舞台に巻き込まれてしまったような感覚だ。  そんな中、僕はようやく通い慣れた会社のビルの屋上で大の字に寝転がり、静まり返った新宿の空を眺めていた。  アフリカのサバンナでしか見られないような満天の星が、まさかこんな大都市で見られる日が来るなんて夢にも思っていなかった。  何故かって、その理由はこの状況を見れば一目瞭然だった。街の明かりが一つも灯っていないから。それは全ての発電所が停止しているから。  それもそのはずで、そうした場所の職員もまた僕たちサラリーマンと同じように、地球最後の一日を大切な人と過ごせるようにと世界中の企業は余暇を設けたのだ。  だから今この一瞬で、誰かの為に働いている人は恐らくいない。全ての人が自分の為に生きているハズだ。  でも、本来はそれが人として普通の事なんだと僕は思う。  僕だって今、初めて出来た彼女(とは言え、付き合い自体は長いのだけれど)の為にここにいる。  彼女は会社に忘れ物をしたと言った。  それについて来いと僕に言った。  僕は渋々その頼みを聞いた。  行った先で、彼女は僕に想いを打ち明けてきた。そして僕はそれに応えた。  だから今がある。  でも、それも今日という日が終われば全てなくなる。  確か、『我々という存在は夢と同じものでてきていて、我々の儚い命は眠りとともに終わる』、だっけかな。シェイクスピアの『テンペスト』にある有名な一節。
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