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声の方に視線を向ける。壁に寄りかかる女が見えた。染めているらしい銀髪のショートカット。カラフルなタンクトップに短パンとギャル風な若い女だ。もう一人は玄関でビニール袋を携えて立っていた。ファー付きのジャケットを着た、寝癖交じりの黒髪の優男。見覚えがあった。
「お、目が覚めたか」
男がそう言い、女も私を見る。タオルケットを剥いで、起き上がろうしたが、その瞬間、目眩が襲ってきた。倒れそうになり、畳の床に手を付いた。
「こらこら無茶すんなって」
女が私の腕を掴み、再び寝かせ、タオルケットをかけた。その時、壁にハンガーで自分の上着がかけられている事に気付いた。そこは六畳ほどの部屋だった。明かりは窓から差し込む日の光だけ。布団の付いていないコタツテーブルが置いてある。私の身に何が起きているのか、さっぱり分からなかった。
「ここは、どこ? あなたたちは……」
女が男を見る。彼女も説明を求めているようだった。男は少し困ったような表情で説明を始めた。
「覚えていない? 日射病で倒れたんだよ。救急車呼ぼうと思ったんだけど、丁度、携帯の充電切れててさ」
男の説明は私に、というよりはもう一人の女に向けて喋っているように聞こえた。それが嘘の説明なのは間違いないだろう。事実、私が失神した理由が日射病でない事は、私が一番よく知っている。
「十月にもなって日射病ねえ。まあ、いいけどさ」
女は訝しげに言った。男がビニール袋から色々取り出し、コタツに置く。ペットボトルのお茶、ミネラルウォーター、オニギリやランチパン。
「何か食べるか、飲んだ方がいい」
男はお茶を差し出した。その時になって喉がカラカラに乾いている事に気が付いた。体を起こし、受け取り、蓋を取って飲む。何だか、久々に人間に戻ったような気持ちになった。
「お! 酒じゃん。どこで買ったの?」
「コンドウ酒店。持ってっていいよ。診ててくれた礼」
女がビニール袋の中から数本の缶ビールとワンカップを取り出す。
「礼ついでに追っ払う用でしょ? ま、別にいいけどね」
酒を手にして女は立ち上がり、玄関に向かう。
「共同部屋なんだから、あんま汚さないでよ?」
「なんもしねえって」
男の言い分を女は意に介さず、ドアを足で閉めた。二人きりになる。少し気まずそうに男が口を開いた。
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