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小屋だ。山小屋。木々の合間から古びた木製のほったて小屋が見えた。恐怖が背中におぶさってきたように感じた。あの小屋には近づかない方がいい。これがホラー映画の序盤なら間違いなく俺は死ぬ。でも、もしかしたら生き残るパターンもあるかもしれない。主役ではないにしろ、重要人物なら死なない。問題は俺に重要人物と思われる要素がほぼない事だ。
高校にも行かず、小銭目当てに心霊写真を撮りに来ている男など、間違いなく死ぬのが仕事の端役だろう。しかしだ、別に失うものなんてない。俺は意を固め、カメラを握りしめ、小屋を目指して歩き始めた。
急に辺りが暗くなった。ビビッて足が止まりそうになったが、月が雲に隠れただけだと分かってホッとした。俺は五百円のインスタントカメラのレンズを覗きながら、小屋へと近づいていった。カメラマンはレンズを通して見ると恐怖心を感じない、という話を思い出したからだ。そして俺は自分がカメラマンじゃない事も思い出した。
その小屋は時代劇で見るような文字通りのほったて小屋だった。窓にガラスはなく、屋根には所々穴が開いている。扉も立て付けが悪く、扉というよりは板を入口に立てかけているような有様だった。
俺はゆっくりその扉だか板だかに近づいていった。中から人の気配はない。その時、ポキリ、と小枝を踏みつけたような音が聞こえた。無論、俺ではない。すぐさま背後を振り向く。そこには赤いフードを目深にかぶった、黒いロングスカートの人物が立っていた。左手には数本の彼岸花を持ち、右手には手鎌を握っている。
俺は言葉を失った。悲鳴も出てきてくれなかった。完全に固まってしまっていた。パニック寸前の俺を落ちつけようと、まだ冷静な俺の部分が心の中で状況を分析し始めた。
あれは幽霊じゃない。小枝を踏みつけていたし、こんな小屋に住んでいるという事は多分、人間だ。きっと害はない。
パニック寸前の俺は反論した。
ジェイソンを見ろよ! 人間だけど害はあるだろ!
冷静な俺が静かに答える。
思い出せ。ジェイソンはあれ、幽霊だよ。
つくづくしょうもない議論を心の中でしている内に、ふと周囲が明るくなった。月明かりだ。どうやら月が雲間から顔を覗かせたらしい。その月の明かりに気付いたのか、フードの人物が顔を上げた。雲間に差す月明かりに照らされ、幽霊なのか、殺人鬼なのか、謎の人物の顔が見えた。
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