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女だ。いやそれはスカートの時点で気付いてはいたが、まだあどけなさが残る少女だった。しかもかなりの美人。とても端正な顔立ちをしている。少女が俺に視線を移した。正直に言って、俺は少し安堵としていた。綺麗な女子なら大丈夫だという、毛ほども根拠のない理屈で緊張が少し和らいでいた。
そして、その理屈が男の愚かしい願望である事を理解するのにそう時間はかからなかった。赤いフードの女が手鎌を振り上げ、俺に向かって歩き始めたからだ。
その時、冷静な俺がパニック寸前の俺に素晴らしいアドバイスをよこした。
悲鳴を上げろ。
俺は悲鳴を上げ、後ろに後ずさり、扉に背中からぶつかった。その時分かったのは、それは扉ではなく、本当に入口に立てかけてあるだけの板だったという事だ。板と共に仰向けにひっくり返った俺は、靴を脱いで上がるための段差に思い切り、後頭部をぶつけてしまった。
そして俺は幸か不幸か、気を失ったのである。
「キングさん! 電気が点かないんです! 水も出ないし、その上、ガスも!」
アパートの一室の前で、俺が悲痛な声を上げると、ドアが開いて、男が強面な顔を覗かせた。眉根を寄せて言う。
「何言ってんの。一ヵ月も前から言っといたろ? そろそろ電気も水道もガスも止まるぞってよ」
俺はそこで言葉に詰まった。まったくその通りだったからだ。
「ま、入れ。オメエの馬鹿さ加減によっちゃ、他の部屋に居候させる事もやぶさかじゃねえ」
そう言ってキングはドアを開けて、俺を招き入れた。六畳一間の手狭な部屋。畳の上に別の男が寝そべっていた。
「ちょっと待ったキングさん。断っておきますがね、俺はごめんですよ。野郎を俺んちに居候なんて、俺はごめんですよ」
寝そべっていた男が週刊誌から顔を上げずに言った。
「何だよ、心狭いな。だからモテないんだよ、篠田さんは」
俺がそう言うとキングも頷いた。
「違えねえ」
篠田はそれで週刊誌から顔を上げる。
「仮にお前を泊めたら俺はモテんの? お前はお礼に女の子を紹介とかしてくれんの?」
「三貫寺の裏山の霊とかどうよ?」
俺が冗談のつもりでそう言うと、キングも篠田も黙った。正直、こんなにスベるとは思わなかった。
「お前が幽霊の写真を撮って、賞金貰ってりゃ、そんな目にも合わなかったんだよな」
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