第1章

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 事も無げに女は答えた。俺はこのボロ小屋を見渡した。とても人の住める環境には見えない。トイレも風呂も布団さえ無いではないか。部屋の隅にコンビニの袋が見えた。一応食料はあるらしい。だがそれでもにわかには信じられなかった。 「家出少女ってやつかい?」  俺がそう言うと、女は部屋の隅に何かを取りに行った。 「警察に通報する?」 「別にそんな事するつもりは……!?」  女は手鎌を手にして戻ってきた。俺は急いで立ち上がったが、その瞬間、頭に鈍い痛みが走った。どうもタンコブが出来ているらしい。 「いってっ……ちょっと、待て。冗談だろ?」  俺は手を上げて制しつつ、後頭部に出来ているタンコブを手で押さえようとした。 「さっきも言ったでしょ? 帰れって」  手鎌を握りしめる女の目は鋭く、瞳孔が開いていた。恐怖を煽る眼光。しかし頭を押さえようとした手に触れた感触が恐怖を和らげた。俺は何か言おうとしたが、いまいち自信が持てなかったので、口をつぐんだ。 「帰れ」  手鎌を剣のように突き付けながら、言い放つその気迫に負け、俺は彼女の目から視線を放さずに出口に向かった。またしても扉代わりの板に悩まされたが、何とか小屋から外に出ると、俺は後ろ髪を引かれる思いで来た道を戻り始めた。  手で再び後頭部に触れる。分厚い紙の感触。冷えピタシートがタンコブに貼ってあった。鎌を手にして脅すかと思えば、見ず知らずの男のタンコブに、冷えピタシートを張ってやる。どっちが彼女の本心なのか。俺は彼女の事ばかり考えながら、彼岸花がちらほらと咲いている坂道を下っていった。 「じゃあ、結局、会えなかったのか。その赤いフードの女の霊には」  スマホの鏡機能で頭の刈上げを確認しながら篠田が言った。俺はちゃぶ台にインスタントカメラを置きながら、嘘の話を続けた。 「気味の悪い場所だったし、出そうな雰囲気ではあったんだけどな」  なぜ、嘘を吐くのか。自分でもちょっと分からなかった。 「つうかさ、何でインスタントカメラなんだ? 写メでいいだろ。環奈さんのデジカメ借りるんでも良かったんじゃないのか?」 「バッカ、おめえ、スマホの写メじゃ簡単にインチキ写真作れっだろ? デジカメも同じだ。PCで簡単に作れる。疑われないようにするならインスタントが一番なんだよ」
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