第1章

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 そう言って篠田は「幽霊は見た」を投げてよこした。心霊写真募集のコーナー。最優秀作品には最高三万円の賞金が出る。この話を持ちかけてきたのは篠田だった。貸した金を返せと言ったら、代わりにこれを差し出し、サポートは惜しまない、とか抜かした。それに乗る俺も大概だが。  篠田は再びスマホで自分の髪型のチェックを始める。俺の部屋で。ここは安アパート、王国荘の一室。築四十年の二階建てアパート。六畳一間、風呂無し、キッチン、トイレ付き。管理人の王さん、通称キングはあまり家賃を気にしない人だった。そのおかげでこんな自堕落な生活を送る事が出来ている。  しかしそれでも電気、ガス、水道は別だ。いい加減、支払いを済ませないと生活が成り立たない。俺は頭にまだ付いている冷えピタシートに触れる。生活が成り立たない、だけどあの女は電気もガスも水道もない場所で生活していると言う。無論、それが本当だという確証はない。  例えばあの小屋は援交女子がラブホ代わりに使っているという可能性もあった。だが、あの子がそういうタイプの女の子だとは思えなかった。俺は昔からこれといって才能はなかったが、ただひとつ、人を見る目だけは自信があった。  時計を見る。午後三時。目が覚めたのはついさっき。裏山から帰ってからは、篠田にノックで起こされるまで部屋で寝ていた。あの小屋に暮らしているのなら、昼間もいるはずだ。行ってみるか? でも何をしに。冷えピタシートのお礼というのは?  俺は立ち上がり、玄関に向かった。 「どっか行くんか? だったら、今週のスピリッ……」 「自分で買え」  俺は後ろ手にドアを閉めた。途中のローソンで冷えピタシート大人用とコンビニの少しお高いシュークリームを買って、三貫寺を目指した。東京都、品戸辺区、風下町の三貫寺。結構、いやかなりでかい寺だ。墓地も相当広い。そして大量の土地を所有している。全ていずれは墓地になるのだろう。人が死ねば死ぬほど儲かるのだから、業の深い話だ。  俺は高くない柵を乗り越え、三貫寺墓地に入った。そして神妙な面持ちで霊園を横切る。この墓地で一際でかい支倉家の墓、その裏が丁度裏山に続く坂道になっている。木々が生い茂る山道を歩く。やはり夜来るのとでは全然違った。昨日はあんなに広く大きく感じたのに、今日は小さく手狭に感じる。子どもの時遊んだ公園に、大人になって行った時に感じるようなミニマム感。
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