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トイレ
入社して1ヶ月が過ぎた頃、私は人とは違う意味の、5月病にかかっている。
それはーー。
「ねぇねぇー!もうここにも慣れた?それと俺にも慣れた?」
「…。」
「おいおい!シカトかよー!おーーい?」
「…。」
このうるさい奴は、初日に会った全裸の幽霊。なんとなく、こいつの頼みを聞く事になったが、ほぼ毎日出て来てはこんな感じで構ってくる。
正直言って迷惑だ。
こいつのせいで退職したいと思うほど…
うざい。
「ねぇねぇ、あのナース胸デカくね?触れたら揉むのにぃ!」
…もう我慢できない。
「うるさい!!」
バン!!とパソコンのキーボードを叩き睨みつける。
「おーー怖ーー!!」
「あんたねぇ……」
ワナワナと震えている肩を、トントンと叩かれた。
振り返ると、同期が変なものを見る様な表情で眉間にシワを寄せて立っている。
「ねぇ…あんた、誰と話してるの?」
その一言で血の気が引き、一気にまた上がってきて私の顔は真っ赤になった。
そうだ!普通、こいつの姿は視えないし、会話も聞こえない。
ってことは私、独り言じゃん!恥ずかしい!!
「ごめん!あははー何でもないのー!」
笑って誤魔化す。
同期は、首を傾げていたがそれ以上突っ込まなかった。
「はぁーー。」
「あはは!馬鹿なだなー!お前にしか俺は視えないんだから気を付けろよなー!」
ケタケタと馬鹿にする様に笑う。
…私に祓う力があったら、即除霊してやるのに。
もう、何言われても完全無視!!
腹を立ててると、ナースステーションにコールの音が響く。
「プルルルル!!」
…北側トイレからだ。
「はい、どうしました?」
「ヴぅぅう…」
電話越しで苦しそうな呻き声。
「どうしました?!大丈夫ですか?」
「ヴぅぅぅ。」
問いかけにも答えない。
コールからの明確な応答が無い場合、その場に行って確認する事が私達の仕事の一部。
「様子を見てきます。」
そう告げて私はナースステションからトイレへ急ぎ足で向かう。
その途中でまた、あいつが出てきた。
「おい!おいっ!」
「………」
無視!無視!もう私は何も視えてない。
さっきの事でイライラしていた。
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