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床のタイルを裸足で歩く音がする。
だけど…姿がない。
ヒタヒタ…ヒタヒタ…
明らかに個室から出て来ている音なのに、姿が視えないのだ。
ヒタヒタ…
どこに居るか分からない恐怖で、私は出入口のドアに背を付けた。
「おい。お前…大丈夫か?」
真っ青な顔と立って居るのがやっとの私をみて、心配して声をかけてくれる。
霊でも、いい奴じゃん。と思ったけど、全裸の姿みて現実に戻る。
…とりあえず逃げ無いとやばい!
こいつの事はさて置き、ここに居たら駄目だ。
ヒタヒタ…ヒタヒタ…
狭い空間なトイレなのに、その足音はグルグル回って、行ったり来たり。
まるで…私を探しているみたいに。
ヒタヒタ…
ヒタヒタ…
後ろにある出入口は開かないし、反対側に小窓はあるけどそこにはあいつが居るし、無事に行けたとしても、開かなかったら絶望しかない。
「おい!!」
考え込んでると、あいつが大声を出し指を指して居た。
そこには、洗面台の鏡が二つある。
そのうちの一つに、鎖骨や肩の骨までくっきりと見えるぐらいやせ細った女が立っているのが映っていた。
鏡から視線を外し、冷たい無機質なタイルを見るがその姿はない。
ヒタヒタ…
ただ、乾いた足音だけが鎮まりかえったトイレの中に響き渡る。
ゆっくりとこちらに近づいてくるのが分かり、私の身体は棒のように硬直し身動きがとれずにいた。
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