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ただそれを黙って見ていると、隣にいたあいつがまた声を荒げた。
「おい!大丈夫か?!」
…大丈夫な訳がない。
心臓は痛いほど鼓動を打っているし、震えは止まらない。
しかも、目の前のやつに追い詰められて絶対絶命だ。
「あっ…」
小さく彼が声を発した瞬間、いきなり首を掴まれ後ろに打ち付けられた。
鈍い鉄の音と共に私の頭部に衝撃が走る。
「っつ!!」
痛いってもんじゃない。
あまりの衝撃に脳震盪おこしたのか、クラクラする。反撃も考えることも出来ない私に、そいつは更に恐怖を与える。
「はあぁぁ…」
顔の前に吐息をかけられた。すごく生暖かくて、生き物が腐ったような匂いで気持ちが悪く、堪らず顔を背けた。
その先に…
「おいっ!!」
男が怯えた顔で私ではなく、鏡の方を見て驚愕していた。
こっちは痛みでそれどころじゃないのに…
一体何なのよーー?
イライラしながら視線の先を見ると、ギュッと私の首を右手で掴み大きな口を歪ませている女の姿があった。
その表情は怒りに満ちていて、鬼の様な形相とは正にこの事だと思うぐらいに恐ろしい。
「いやぁぁぁー!!!」
堪らず悲鳴を上げ、目の前にいる女を正面から視るもその姿はない。
でも、首から伝わってくる力は強く、私を絞め殺そうとしているのだろう…。
苦しくてもがきなら、居るはずであろう女を夢中で叩く。
しかし、私の拳は空を切る。
鏡を見ると、確かに居るのに…
「くっ…はっ…はっ!」
徐々に上がっていく息。
やばい…限界に近づいているのがわかる…少しずつ手が痺れて動きが鈍くなってきた。
ブラーンと力が入らなくなった私の手は 無気力にユラユラし、目はもう開けていられない。
「くそっ!しっかりしろよ!」
男が私に怒鳴るのが聞こえたと同時に、首から女の手が無造作に離れたのを感じ、力が抜けた足は、自分の身体を支えられず地面へと崩れた。
「かはっ…はー…はー…ぜーはー!!」
締め付けていたものがなくなった私の気管支は勢いよく酸素を取り込み、意識も戻る。
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