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それでも常に気になっている疑問がひとつ・・・・。
訊きたくても、なんとなく訊けなかった疑問。
いつも有沢に引っ張られるたびに思っていたコト。
どうせやることもなく、ただ座っているだけのいまなら訊いてもいいだろう。
「先輩」
「ん?」
「俺、気になっていることがあるんです」
「なに?」
「なんで俺に構うんですか?」
「は?」
あまりにも間抜けな顔をするので、もう一度、訊いてみる。
なぜ自分に構うのですか、と。
有沢は言葉の意味がわからないかのように首を傾げている。
はっきりいって、意味がわからないのはこっちだ。
一度面識があったくらいで、校内でも5本の指に入るほどの人気者に散々連れまわされて、「なぜ?」という疑問が沸くのも当然だろう。
正直、この数ヶ月、何度となく頭をよぎった疑問。
「なぜって・・・・気に入ってるからじゃない?」
「そんなのわかってます」
「お、わかっていたのか?」
「嫌いな人間を構うほど、先輩ヒマじゃないでしょう」
「たしかに」
と、有沢は肩を竦めて笑った。
くだらない。
春日は深々とため息を吐いた。
ヒマ潰しならべつにそれでいい。
理由なんてなくたっていい。
なんか、どうでもよくなってきた。
「すごいため息だな」
「呆れているんです」
「なに、俺に?」
「それもありますけど・・・・」
と、いいかけた瞬間、突然、強い突風に襲われる。
有沢の傍らにおいてあった雑誌が、風によってぱらぱらとページがめくられていく。
ふと、有沢に眼がいった。
長めの髪が風に攫われるようになびいていた。
少し視線を落として風が治まるのを待っている姿に、不本意ながら眼を奪われた。
有沢は決して、綺麗、と呼ばれる部類の顔ではない。
どちらかというと、ワイルド系で人気が高い。
いわゆる、強そう、とか、そんな感じ。
それでも、綺麗、だと思った。
「すげぇ風だな、おい」
苦々しく呟いた一言に、そうですね、と返事を返し、春日は視線を空に向けた。
風の激しさとは裏腹に、空は相変わらず透き通るような、青。
たしかにもったいないかもしれない。
こんな日に教室に篭ってしまうのは。
連れ回されはじめて、はや数ヶ月。
初めて有沢の選択が正しい、と思った。
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