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眼を閉じて、吹き荒れる風を味わう。
頬に当たる冷たさも、また心地いい。
風の勢いは次第に弱くなり、微かに触れる優しさへと変わる。
激しい風の名残で乱れた前髪をかきあげつつ、そっと眼を開けると、自分を凝視していたらしい有沢と視線がぶつかった。
「なんです?」
「わかった」
意味がわからないセリフに首を傾げると、有沢はゆっくりと微笑んだ。
「きっと、あれだ」
「だから、なにがですか」
「さっきの答え」
春日は眉を顰める。
さっきの、というのは自分が訊いた「構う理由」だろうか。
それ以外には思いつかない。
べつにもうどうでもいいけど、自分から振った話題なだけに、訊かないわけにはいかないだろう。
春日は肩を竦めて、「どうぞ」と、先を促した。
「たぶん、アレだ」
「はい」
「俺はおまえのことが好きなんじゃないか?」
「俺に訊かないでください」
「じゃあ、好きなんだよ」
「いちいちいい直さないでください」
思い切り呆れ顔で突っ込む春日に、有沢は堪え切れないかのように勢いよく吹き出した。
なんなんだ、いったい。
目の前で笑い転げる男を見ながら、春日は眉を寄せた。
「いや、おまえ、おもしろいね」
「そうですか?」
「最高」
おもしろいことのどこが最高なのか解らない。
からかわれているのと同じではないのか?
バカらしい。
訝しげに眉を顰める春日の顔を、有沢は楽しげに見つめている。
「春日」
名前を呼ばれ顔を向けると、有沢は苦笑しながら肩を竦めた。
「やっぱりさ、おまえのこと好きみたいだわ」
「そうですか」
「それだけ?」
「なにがですか?」
「いやぁ、もっとリアクションが欲しいかな、って・・・・」
「・・・・そんなもん俺に求めてるんですか?」
「そういうわけじゃないけどさー・・・・」
「?」
「一応、告白したつもりなんだけど」
まっすぐに見据えられて、おもわず眼を見開いた。
遠くでチャイムの音が聞こえたような気がする。
それでも有沢は動かない。
いつもの調子のいい雰囲気ではなく、その表情はどこか真剣で・・・・。
気のせいかもしれないが、その眼は微かに憂いを帯びている。
強そう、というイメージなど、どこにも感じない。
まるでおあずけをくらった小動物のようだ。
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