第1章  姫から王子へ

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 放課後の学校はざわめきに満ちている。運動部の掛け声やブラスバンド部の楽器の音、文化祭の準備も始まっているからあちこちでしゃべったり何かをたたいたりする音が学校中に響いている。  1-Aの教室で高橋祐樹(たかはしゆうき)が帰り支度をしていると、河野聡(こうのさとし)が声をかけてきた。 「祐樹、今日の放課後って空いてる?」 「ごめん、約束ある」 「なんだよ、デート?」 「うん」 「なにが、うんだよ。ちょっとは恥じらえ」 「恥じらうって、なに時代の話なの」  祐樹がふわりと笑う。その笑顔に河野はたしかに、と心のなかで思った。  高等部に上がってから、祐樹にはひそかな呼び名がついた。というか増えた。  王子さま、だ。
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