クリスマスの遺言

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「最後に川縁さんが新太くんに残した遺書には、 手術に成功したあなたに、自分の作ったトンボ玉で病院にクリスマスのツリーを飾って、患者さんたちを楽しませてほしいって書かれていたんですって?」  新太というのは僕の名前だ。 「……はい。実現がこんなに遅くなってしまいましたが、どうか今日はよろしくお願いします」  親しかった赤の他人の僕が遺産相続した数多のトンボ玉を見て、看護師さんは悲しげに笑った。その隣の袋には、弟子であった僕の作ったものも入っている。  僕は今でも、自宅でトンボ玉を製作しながら大学に通っている。副業でも川縁さんのような職人になれることを夢に見て、毎日バーナーを触っているのだ。 「そういう事情なら、こちらこそよろしくお願いします」  目尻を緩めた看護師さんは、シワを深めて頭を下げる。綺麗に背筋が正されていた。それに困った僕に、遠くから電飾を担いだ従兄弟が不意に大声を出す。 「おーい、そろそろこっちの設置作業も手伝ってくれ!」 「声がでかい!」 「あ、いっけね!」  深夜の病院の窓口で騒がしくしているなんて言語道断。慌てた伸介が口を押さえると、支えを失った電飾が床に落下する。そのせいで足の上に絡まってアタフタしている図となった。 それを見た僕がアチャアと眉間を押さえ、看護師さんは困ったようにため息をついた。 「……お願いですから、声は小さくお願いしますね」 「従兄弟がすみません」  謝罪をした僕は、急いでツリーを作る手伝いに参加してくれた伸介の下に駆け付ける。 床に転がった電飾を拾い、段ボールの中に仕舞いこんだ。 「……さあって、これから病院のサンタさんが飾り付けるとしますか」  伸介が鼻の下を擦ると、僕はニヤッと笑う。  音の響きがナイスだ。 「いいね。その……」 「「病院のサンタさん?」」  口端を上げた僕らは、互いの顔を見合わせてくっくと笑いを堪える。ツリー設置の許可をくれた看護師さんが笑顔になった。
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