クリスマスの遺言

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 トンボ玉を飾り付ける作業自体は、それほど大変なことではなかった。 穴に糸を通し、端を結んでツリーの枝に引っ掛ける。足元に緑の葉が散らばるけれど、それは気にならない。ゴミは後で箒で集めて捨てればいい。 「もしかしたら。ここにある玉が盗まれると思うけど、それはいいのか?」  伸介が不安そうに言った。それに、僕はマジメに応える。 「うん、しょうがないからね。それに……」 「ん?」 「なんとなく泥棒の気持ちも分からなくはないから」  僕の言葉に、彼は意表を突かれた顔になる。 へえへえ、そうですか。お優しいことで。と、伸介は呆れたように鼻を鳴らした。  試しに電飾のスイッチを入れると、ぶら下がったオーナメントやトンボ玉にチカチカ反射してひどく豪華なことになった。  まるでありったけの宝石を飾ったみたいだ。 紅の玉に翠の玉。銀箔をあしらった蒼の玉に、小花の散った玉、美しく咲く水中花の玉。 アメジストと乳白色の結晶を混ぜたようなもの、トパアズみたいに輝くものや、蛋白石のような作品まで、夜空の満天の星々を思わせる圧巻の美しさだった。  ありとあらゆるトンボ玉はきらめき、艶やかにそこで華やいでいた。 余りの美しさに伸介が放心して吐息を洩らすと、僕は神妙な顔でツリーを眺めて、思わず呟いた。 「まどかちゃんも、これを見て天国で笑っているかな」 「……まどかちゃんって……、その」 「うん。川縁さんに会う前に白血病で亡くなった、一緒の病棟に入院していた女の子」  ――そして、僕の友達であり、初恋の君だった。 それを聞いて気まずそうに、オッサンになった伸介が僕を見る。 その表情に、僕はフッと笑って彼女のことを思い出しながら語った。 「こういうの、見たらあの子は絶対喜んだと思うんだ」 「……そうね。まどかちゃんなら絶対喜んだわね」  涙声になった看護師さんが、ハンカチでそれを拭いながらそう言った。  ピンクの花柄のハンカチだった。 それこそ神様がこさえたようなツリーが、僕らの目の前に出来上がった。朝になれば、この病院の患者全員にお披露目となる。 何かをやり遂げた後の充実感を胸に、人目を忍ぶサンタクロースみたいに僕と伸介は、この病院から立ち去った。
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