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入院病棟
事故で入院した友達のお見舞いに、市内の総合病院へ行った。
総合病院だけあって入院患者の数が多く、病棟も、十階建ての物が東と西の二つある。
間違えないよう、教えられた棟側のエレベーターに乗り込み、俺は友達の部屋がある階に向かった。
少しゆっくり目のエレベーターが静かに上がって行く。それが目的のフロアで止まった。
するすると扉が開く。けれど俺はエレベーターの外に降りることもできぬまま、戸口付近で凍りついた。
一目見ただけで、空気がどんよりと淀み切っているのが判った。
入院病棟なのだから、多少は重々しくて仕方がないとは思う。でもここは明らかにそれとは違う理由で淀んでいる。
掃除が行き届いてないとか、電灯が薄暗いとか、そういう理由では絶対ない。ここの空気自体がおかしいのだ。
何が、とは説明できない。でも明らかに『何か』がおかしい。しかも、そのおかしさから逃げたくて、別の階のボタンを手当たり次第に押し、ずっと閉のボタンを押し続けているのに、エレベーターは動かない。
ここにいたくない。いや、いてはいけない。
そう思うのに、エレベーターの扉は閉まらない。
全身から冷たい汗が吹き出し、速くなった動悸に合わせて呼吸も速くなる。
それでもひたすらそのままでいた俺の視線の先で、フロアの、廊下にいる総ての人がこちらに顔を向けた。
その瞬間、背筋に凄まじい勢いで冷たい感触が駆け上がった。
生きてない。今目に映る人達は誰一人この世の者ではない。
直感がそう告げる。だけど体は動かない。いや、動いたところでどうなると言うのか。
フロアに降りるなんてありえない。でも、目の前の何者か達がエレベーターに乗り込もうとしたとして、それを防ぐ術もない。
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