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ジャコモは財産が…とりわけ愛用していたヴァイオリンのことを案じて、借金のかたに差し押さえられる前に何とか手を打とうとしているのだ。
恐らくそれが、持ち主としての最後の使命だと考えているのだろう。
エリックの友人にはヴァイオリニストやチェリストなど、弦楽器の奏者も何人かいる。
彼らは皆、自分の楽器は家族のような、あるいは恋人のようなもので、それらは生けるものだと言って憚らない。
もう未練がなくなった、と言いながら、エリックの家から立ち去っていくジャコモの後ろ姿もまた…大切な人と生き別れたような深い悲しみに満ちている…エリックにはそのように思えたのだった。
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