一章

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「いらっしゃいませ。」 私は少し張り上げた声で来店客を迎えた。 いつものように、客に水を出し、注文を取る。 注文を取ると厨房にひっこみ、調理を手伝う。 見飽きた厨房でフライヤーに豚カツと海老フライを放り込み、ルーを小鍋に入れ換えあたためる。 付け合わせのサラダ、野菜類を用意する。 もう目を閉じていてもできると思う。 結構本気でそう思う。 試したことはないけれど。 …思えば、何となく学校を卒業して、何となく就活をして、何となくいい企業に巡り会えなくて、何となくフリーターを続けていたのは遠い昔の話。 気がつけば三十路をこえて、何となくバイト先で社員に誘われ、何となく社員になり、気がつけば店長になってもう何年だろうか…。 客席に座り、他愛もない話で盛り上がるOL。 彼氏とデートだ、テーマパークにいく、買い物にいく。 何だかんだと理由をつけてシフトを休みたがる学生のバイト。 どこを見ても、誰を見ても、とても幸せそうな笑顔。 その一方で私はわがままなアルバイトに振り回され、まともに休みも取れず長時間労働に終われる毎日。 安い給料でこき使われ、認めずとも、他者はいう。 いい年なんだからそろそろ結婚しなさいと。 本当に…外野は好き勝手いってくれる… 出来るものならば、私もそうしている。 ただ、今さらいったいどうすればいいっていうの? 考えても見て欲しい。 今の生活に精一杯の私に、いったいどこにそんな余裕があると?
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