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◆◆◆◆◆
島本に最後のLINEを送信した。
地上と比べて、ここは風が強くて冷たい。
でも不思議と寒さは感じない。
さて、もう潮時だ。
スマホを足元にそっと置こうとして、気が付いた。
島本からLINEが届いている。
【俺もお前に出会えてよかったけど、そんなことより助けてくれ、大変なんだー!相談に乗ってくれー!】
ふっ、と笑みが漏れてしまうような、情けない内容だった。
思わず屈む込み、返事をする。
【一体どうしたんだい?】
【夏蓮と喧嘩した。別れる別れないの大喧嘩になっちまって。でも謝りたくねーし】
【原因は?】
【聞いてくれるか!!】
まあ、少しならいいかな。特に急いではいない。夜明けまでに済ませられればいい。
【聞くよ。話してみて】
スマホとにらめっこしながら、僕は島本から送られてくる長い長いLINEを読み耽った。
時に意見を求められれば、僕なりの感想やアドバイスを送った。
どれだけやりとりが続いただろう。
僕が自殺を決意して、大学の3号館の屋上にしのびこんでから、もう随分と経ってしまった。
島本の反応は相変わらずだ。
夏蓮さんと別れたくないけど、謝るのは嫌だという、相変わらずいじっぱりな性格。
死を決意した今となっては、なぜか世界中の全ての事柄が愛しく思えてしまうから、不思議だ。
ああ、でもそろそろいかなきゃ。
夜明けが近い。
まだ頻繁に返信がくるスマホを、優しく丁寧に足元に置いた。
微かに明るく成り行く空は、僕の目線と同じ位置だ。
この屋上には、大学4年間、休憩所としてお世話になった。
僕の中で最も幸福だった場所。
柵を乗り越えて、真っ直ぐ前を見据える。
「藤原」
真後ろからぶつかってきた声に、僕は驚愕して振り返った。
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