14人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇◇◇
「ただいま」
俺が玄関の扉を開けると、夏蓮は腰を抜かさんばかりに、いや、実際後ろにひっくり返って尻餅をついた。
「え?! え?! 藤原くんはどうしたの?! 死んじゃったの?!」
「死なねーよ」
俺は苦笑いで答えて、夏蓮が落とした自分のスマホを拾う。
案の定、夏蓮はずっと、ひたすらLINEを続けてくれていたらしい。
「だだだだって、卓が『藤原がヤバイ!』って言ったんじゃん! 自殺するつもりだって! 助けたの? 止められたの? 間に合ったんだよね?」
「ああ、大丈夫だよ」
大丈夫、あいつは、必ず戻ってくる。
もう、そう信じるしかないんだ。
夏蓮の手汗か、それとも古さで発熱が激しいのか、スマホが熱い。
俺はそれでも、ひしとスマホを包み込む。
「1時間くらい前から、メッセージが既読にならなくなったの」
床に転がったままの体勢で、夏蓮は不安げに俺を見上げる。
1時間ならおそらく、俺と出会い、俺と別れてから、俺が帰宅するまでの期間だ。
なれ、なれ、なれ。
頼むから。神様。一生のお願いだから。
………なれ、なれ、なれ!!!
祈る思いでひたすらLINEの画面を見守った。
どれくらい、そうしていただろう。
いつの間にか夏蓮も寄り添うように隣に立って、スマホを覗き込んでいた。
部屋の隅でゴオゴオと鳴っていたガスヒーターが、ガス切れで威力を失っていた。
そのせいで部屋が冷えきっていたことに、身体がブルリと震えたことで、ようやく気が付いた。
「…………なった!!」
夏蓮が叫んだ。悲鳴に近い叫び声だった。
今まで聞いた夏蓮のどの声よりも、歓喜に満ちていた。
「……ああ、なった……」
今度は俺の腰が抜けた。
ヘタヘタと床にへたり込み、すっかり立てなくなった。
俺の手の中では、たった今全てのメッセージが既読になったスマホが、更に熱くなっていた。
完
最初のコメントを投稿しよう!