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  ◇◇◇◇◇ 「ただいま」 俺が玄関の扉を開けると、夏蓮は腰を抜かさんばかりに、いや、実際後ろにひっくり返って尻餅をついた。 「え?! え?! 藤原くんはどうしたの?! 死んじゃったの?!」 「死なねーよ」 俺は苦笑いで答えて、夏蓮が落とした自分のスマホを拾う。 案の定、夏蓮はずっと、ひたすらLINEを続けてくれていたらしい。 「だだだだって、卓が『藤原がヤバイ!』って言ったんじゃん! 自殺するつもりだって! 助けたの? 止められたの? 間に合ったんだよね?」 「ああ、大丈夫だよ」 大丈夫、あいつは、必ず戻ってくる。 もう、そう信じるしかないんだ。 夏蓮の手汗か、それとも古さで発熱が激しいのか、スマホが熱い。 俺はそれでも、ひしとスマホを包み込む。 「1時間くらい前から、メッセージが既読にならなくなったの」 床に転がったままの体勢で、夏蓮は不安げに俺を見上げる。 1時間ならおそらく、俺と出会い、俺と別れてから、俺が帰宅するまでの期間だ。 なれ、なれ、なれ。 頼むから。神様。一生のお願いだから。 ………なれ、なれ、なれ!!! 祈る思いでひたすらLINEの画面を見守った。 どれくらい、そうしていただろう。 いつの間にか夏蓮も寄り添うように隣に立って、スマホを覗き込んでいた。 部屋の隅でゴオゴオと鳴っていたガスヒーターが、ガス切れで威力を失っていた。 そのせいで部屋が冷えきっていたことに、身体がブルリと震えたことで、ようやく気が付いた。 「…………なった!!」 夏蓮が叫んだ。悲鳴に近い叫び声だった。 今まで聞いた夏蓮のどの声よりも、歓喜に満ちていた。 「……ああ、なった……」 今度は俺の腰が抜けた。 ヘタヘタと床にへたり込み、すっかり立てなくなった。 俺の手の中では、たった今全てのメッセージが既読になったスマホが、更に熱くなっていた。 完
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