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翌日は案の定、罵声を浴びせられ、嫌味を吹き掛けられ、海辺で波に弄ばれる棒切れのように、なすがままだった。
頭を下げっぱなしで、午後を過ぎる頃には首が痛くなっていた。
とりあえず今日の約束は終えた。
部長と別れ、ふらふらと駅へ向かう途中で、目についた喫茶店に入った。
目的があったわけじゃない。ただ、休みたかった。
空いた席に崩れ落ち、現れた店員にホットコーヒーをたのむ。
朝から何も食べていないのに、食欲がない。
店員が去ってからは、頭の中が無になった。
脳みそも頭蓋骨も、何も入っていない。
思考力は完全に機能を失い、視力さえも失せた気がした。
何も考えられない、何も見えない、言葉も出ない、腹も空かない。
しばらくまともに眠っていないのに、眠気さえも僕を休息に誘ってくれない。
気が付けば、いつの間にかコーヒーがテーブルに置かれていた。
ゆるゆると湯気が立ち上る。
じっと眺めていると、スマホが震えた。
「はい、藤原……」
『圭太っ!! どこにいるのよ!』
「……え?」
付き合っている彼女のヒステリックな声に、僕は思わず顔をしかめる。
『え、って、有り得ない! もう2時間待ってんの!!』
「…あ」
忘れていた。
今日は、デートの約束をしていたんだ。
仕事が入ったことを、伝えるのを忘れていた。
「ごめん菫」
『ごめんって! 今からでも会えないわけ?!』
それは到底無理な話だ。
「ごめん、今日は……」
『分かりましたもういーです!さよならです!1ヶ月以上放置しといて、やっと会えると思ったら、約束まですっぽかすなんて。ホント有り得ないから』
「すみ……」
通話は殴り付けるような勢いで切れた。
多分、いや、確実に、関係も切れた。
実際、最近は全く会っていなかったのだから、関係も何もない。
もう菫の身体の温もりさえ、忘れてしまっていた。
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