14人が本棚に入れています
本棚に追加
笑いながら、島本はスマホを取り出した。
「LINEくらい俺もやってる。ほら、お前の番号教えろ」
「うん」
島本に番号を教えると、極度の安堵が去来した。
ああ、これでやっと、Facebookから抜け出せる。
これでやっと、島本と連絡が取り合える。
それからは、他愛もない話で盛り上がった。
互いの仕事の事や、彼女の事や、他の仲間達のこと。
時は幸福で、永遠に続けばいいと思った。
「おっと、もう6時だ。帰って夏蓮に謝っとくわ」
島本がさりげなく伝票を手にして立ち上がった。
「彼女さんに、僕からも謝っておいてくれる?悪いことしたから」
「ああ、分かった」
そのままレジに向かう島本を追い掛けて、自分のコーヒーの金額を横から差し出すのに、受け取ってくれない。
結局島本に奢られる形で、喫茶店を出た。
外はもう、夕暮れだ。
赤く染まった都会の空は、まだ美しい。
こうして空を眺めたのは、一体いつぶりだろう。
狭くて低く感じる都会の空が、僕は嫌いだ。
でもそれは、僕の心が映っていただけなのかもしれない。
赤く染まった今の空は、広くて優しい。
「僕は、駅の方だから。島本は?」
「俺はこの近く。なんなら寄ってくか?」
「そうしたいのは山々だけど、明日も早いし、帰ってからも仕事あるから」
「そっか。なら、またな」
「うん」
僕は軽く右手を上げて、島本の背中を見送った。
と、すぐにまた、こっちを振り返った。まるで僕が見送っていることを、分かっているみたいに。
「さっさと帰れよ藤原」
「え、あ、うん」
「おやすみ」
「……」
今度こそ島本は歩き始め、背中はどんどん小さくなって、日暮れの街に溶けていった。
最初のコメントを投稿しよう!