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笑いながら、島本はスマホを取り出した。 「LINEくらい俺もやってる。ほら、お前の番号教えろ」 「うん」 島本に番号を教えると、極度の安堵が去来した。 ああ、これでやっと、Facebookから抜け出せる。 これでやっと、島本と連絡が取り合える。 それからは、他愛もない話で盛り上がった。 互いの仕事の事や、彼女の事や、他の仲間達のこと。 時は幸福で、永遠に続けばいいと思った。 「おっと、もう6時だ。帰って夏蓮に謝っとくわ」 島本がさりげなく伝票を手にして立ち上がった。 「彼女さんに、僕からも謝っておいてくれる?悪いことしたから」 「ああ、分かった」 そのままレジに向かう島本を追い掛けて、自分のコーヒーの金額を横から差し出すのに、受け取ってくれない。 結局島本に奢られる形で、喫茶店を出た。 外はもう、夕暮れだ。 赤く染まった都会の空は、まだ美しい。 こうして空を眺めたのは、一体いつぶりだろう。 狭くて低く感じる都会の空が、僕は嫌いだ。 でもそれは、僕の心が映っていただけなのかもしれない。 赤く染まった今の空は、広くて優しい。 「僕は、駅の方だから。島本は?」 「俺はこの近く。なんなら寄ってくか?」 「そうしたいのは山々だけど、明日も早いし、帰ってからも仕事あるから」 「そっか。なら、またな」 「うん」 僕は軽く右手を上げて、島本の背中を見送った。 と、すぐにまた、こっちを振り返った。まるで僕が見送っていることを、分かっているみたいに。 「さっさと帰れよ藤原」 「え、あ、うん」 「おやすみ」 「……」 今度こそ島本は歩き始め、背中はどんどん小さくなって、日暮れの街に溶けていった。
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