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  ◇◇◇◇◇ 入社2年目で本社に転勤という流れは、まさしく出世コースらしい。 そんな噂を耳にしても、実際自分が沸き上がる歓喜に震えていたのは、その点じゃなかった。 高校から大学と、7年間常につるんでいた友人が、そこにいるからだ。 就職した途端、連絡が取れなくなっていた。 携帯にかけても、番号が変わったらしく繋がらない。 東京のどこかで干からびてるんじゃないかと心配していた矢先、奇跡的に出会ったのが、半月前だ。 「……既読にならねー」 「え?」 スマホを睨んで呟くと、うちに来ていた夏蓮に感知された。 「やだ、なに女々しいこと言ってんの。誰にLINE?」 「藤原。一昨日送ったLINEが既読にならねーんだよな。毎日やりとりしてたわけじゃないけど、送ればそれなりに戻って来てたんだよ」 「そう。一昨日かぁ。ちょっと長いわねぇ」 人差し指を顎に当てて、思案顔になる。 夏蓮とは転勤してすぐに知り合い、意気投合し、早々に付き合い始めた仲なのだけど。 あまり彼氏に依存しない飄々とした性格が俺に合っている。 「藤原くんって、卓の想い人でしょ?」 「違うし。腐れ縁っていうか、まあ、親友」 「こないだやっと会えたのにね」 「まあな」 夏蓮には藤原の話をしていた。 連絡の取れない友人がここにいると。 「そんなに気になるなら電話すれば? 手っ取り早いでしょうに」 「いや、あいつ仕事がめちゃくちゃ忙しいみたいでさ、どの時間帯が暇なのか謎なんだよな。仕事中に当たったら迷惑この上無いだろ」 「確かに」 短く納得して、風呂場に姿を消した夏蓮から、視線を再びスマホに落とす。 たった一行の文の横には、送信した時刻が虚しく並んでいるだけだった。
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