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    夏蓮と入れ違いで、風呂に入った。 何もかもを洗い流して、素早く湯船に沈んだ。 脳裏に過るのは、藤原の痩せこけた顔。 学生時代から自分を『僕』と呼び、どこか頼り無く遠慮気味で、ゆらゆらと流される奴だった。 物言いも穏やかで、誰かに不満を抱いたり文句を言ったり怒ったりした記憶すらない。 もしも。 もしも、極限のストレスを爆発させたら、あいつは一体誰に何を言うんだろう。 一体何をするんだろう。 「ねえ!! ねえ卓!!!」 突然部屋から夏蓮の声が飛んできた。 頭からスッポリ湯船に浸かっていた俺の耳に届いたのだから、余程だ。 「どーした? ゴキブリでも出たかー?」 「既読になったのよ! 卓から藤原くんへのLINEが既読になったの!」 なに? それは良かった! 「でね!? 藤原くんからLINEが入ったの!」 「こら、勝手に読むなよこのやろー」 「卓が開いて置いてるから! そんなことより、そのLINEの内容がおかしいの!」 俺はズバンと風呂から上がった。 バスタオルを腰に巻き付け、部屋へ転がり込んだ。 まだ水気のある右手で、テーブルの上のスマホを掴み取った。 一目で異様だと気が付いた。 長い。随分と長い文章がつらつら並んでいる。 いつもなら、一文や、酷いときは一言で終わる藤原のLINE。 あいつの律儀な性格からは程遠い、そっけなく殴り書きのようなLINEばかりだったのに。 「……読んでみて」 「夏蓮は、読んだのか?」 「ごめんなさい、読んだ」 そう囁く夏蓮の目は、心なしか湿っていた。
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