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正門から近い中庭で人影が見えた。何故か気になり、気づけばそっちへ駆け出していた。 「こら! 末長! まだ話し終わってないぞ!」 「おい! 楓!! 」 なんだろこの胸騒ぎ……確かめたい……確かめなきゃ…… 足元で落ち葉が軋む音がする。銀杏の黄色の葉が風に靡いていた。 中庭には一際大きい桜の木が一本植わっている。みるからに年季が入っている桜の木だった。年老いているのにも関わらず毎年、桜色の花を咲かせる。その姿は強い生命の息吹を感じさせる程だ。 見えてきたあの桜の木は、所々赤く染まっていてその桜の木の近くまできて足が止まった。 白衣姿の男性は、赤く染まった葉をどこか悲しげに眺めていた。その目から涙が伝うのが見えた。 ドキ…… 心がざわつくのはきっと桜せいだ。でも気になる……もっと近くでもっと見たい。 また足を踏み出すと、足元で落ち葉が乾いた音を立てた。 「……誰」 その声は凛と耳に響く……耳から首筋にかけて病的な程白い。潤んだ睫毛が俺を捉えた。 「……君は」 目元を拭い、何か考えてまたこちらを見た。 「この桜の木みたいだね……教室行かないと予鈴鳴ってるよ」 言われて始めてチャイムの音が耳に入ってきた。 こちらに向かって歩いてくる。横を通り過ぎる時、その人から微かに甘い果実の匂いがした。
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