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___言えなかったんだ。 『一緒にあの神社の紅葉見よね』と楽しそうに言う君に……もうすぐ帰るなんて…… 夏休み最後の二週間。母方の実家へ療養を兼ねて母と一緒に帰省していた。 帰路の列車の中で出発の時を待った。すると改札を通りホームへ走ってくる少年の姿が見えた。 急いで入り口に向かい、少年に声を掛けた。少年は駆けてきて俺に抱き付いた。 『見送りに来てくれたの?』 腰に巻き付く小さな手はギュっと服を掴み、顔を埋めた。その姿に微笑み、頭を撫でると少年は顔を上げた。怒っているのか眉間に皺を寄せ、口元は一文字に結ばれていた。 いつもみたいに笑ってくれないの? 列車が出発のベルを鳴らす。 『じゃ……また…あっ楓彩!』 言い終わらないうちに少年は走ってホームを出て行った。仕方なく列車に乗り、席へ戻った。 列車は鈍い金属を鳴らし、ゆっくりホームから発車する。心地よい音が徐々にスピードを上げていく。 窓の景色は収穫期が終了した田畑が広がり、山々は少しずつ色を変え始めていた。青い空は高く澄んで、すじ雲が流れていく。 畑の真ん中で、少年が腕いっぱいに伸ばし、その手から何かが舞うのが見えた。急いで窓を開け少年の名を呼んだ。風に乗ってその紙片がここまで運ばれてくる。そのゆらゆら漂う紙片に手伸ばし掴んだ。 折り紙? 少年の手から紙片が舞う…… 少年の口が動いた。だけどその声は聞こえず、その姿を見えなくなるまでずっと見ていた。
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