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「末長! 末長楓彩(すえながかい)!! 」
二回も呼ばなくても聞こえてるって……
聞こえない振りをし、正門を通ったところで腕を掴まれた。楓彩は小さくため息を吐くと立ち止まる。
「ため息を吐きたいのは先生だ! なんだその髪の色は?」
「……紅葉?」
俺は真面目に応えたつもりなのに、隣にいた啓介が吹き出して俺の腕を肘で小突いた。
「……ふざけてんのか」
松尾先生は腕を組み眉毛をピクリと動かした。
「戻すつもりが赤く染まっちゃって」
「校則違反だから色を落としなさいって言っただろ! 色を変えろって言ってないぞ!」
「あはは……」
「笑っても誤魔化せません!」
グランドの周囲には桜の木が植えられている。春になると可憐な薄桃の花を咲かせ、見事なその桜並木は、この地域で有名な学校だ。そのせいか『桜の高校』と言われるようになったと聞いた。
ここの桜があの時、一人で見た紅葉の景色に似ていて、胸がざわついき目が離せなくる。
またその季節がやってきた。グランドの桜が紅葉し、赤や黄色に染まる葉を静かに散らせていた。
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