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そして、引っ張る。私は滑り落ちる。水の中へ。
全身が心地悪い液体に沈んだ。服が水分を吸い込みずしりと重くなる。
泉か沼かわからなくなっても、そこに吸えるものはない。
口を閉ざす。これ以上飲み込まないように。これ以上吐き出さないように。
今ある唯一の理性の形を無くさないようにと。
だがそれを怒れる水の精霊は許さない。
水の精霊は私の口をこじ開け、喉に腕を突っ込んだ。
ごぼり
希望だったものは跡形もなく宙に消えた。
めきめき
大量の悪夢が体の中に押し詰めてくる。
圧が私の内臓を押し広げる。無理やりにでも、居場所を求むように。
泡と共に悲鳴がこぼれる。
苦しい。苦しいよ。助けてよ。
空気をください。窒息してしまいます。
どうしてこうなったんだ。
こんなのを望んでいたわけじゃないんだ。
水の精霊は内側から語り掛ける。
君からしたら残念なことかもしれない。
きっとなにもかもに苦しむことになるだろう。
薄い意識にやたら言の葉が残響する。
だけども、これは何よりも幸福なことだと君は知っていたはずだ。
そして、私から言えることはひとつ。
わかるだろう?
やめろ、聞きたくない!
ようこそ。
水の精霊は私を迎え入れた。
私は水の精霊を受け入れたくないのに。
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