水の精霊

5/6
前へ
/20ページ
次へ
突然ぴたりと呼吸の苦しさがなくなる。水の底に足がついた。 気が付けば一番下まで来ていたんだ。 水の底から上を見上げる。 三日月の光が優しく天を照らしていた。 悲しいが、悪くない景色だった。 ずっとここにいれば幸せなのかもしれないとして。 でもここに居てはいけないんだ。 ここにはいられないんだ。 なんでこんなに残酷なんだ。 残虐すぎて、涙が浮上する。 私は進むしか道は無いようで。 腕を不器用に動かす。体が浮く。 もがきながら、水面を目指し、 そして重い体を陸に押し上げた。 私はまるで陸に打ち上げられた魚のようだ。 溜息をつく。水の精霊の声はもう聞こえない。 私はゆっくり歩みだした。 恐怖は当分続くだろう。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加