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私が耐えるには未熟すぎていた。
あの二人だって勝てなかったのに。
美しく、赤く輝く果実。
その赤の中にどんな潤いをもたらすのだろうか。
私の世界は今やネズミと果実で埋め尽くされている。
どうしたものか。
いつからこうなった。私は何を間違えた。
常に正しくあろうとした私の何が間違えているのだ。
頭痛がする。酷い。あまりにも無惨な仕打ちだ。
それほどにもそれは、狂おしく。
赤く、小さく、甘く香るそれは。
ふりこのように揺らめくそれは。
とても、妖艶に魅せるのだ。
催眠術でもかけているのではないかと。
私の世界の中で、最高と言えるほどに輝いているのだ。
ネズミは醜い。だが、同時に私も醜かった。
だからさくらんぼの美しさに胸が締め付けられるのだ。
手を出したら本当に最後だ。私は終わってしまう。
見える結末。それがただのさくらんぼではないことはとっくに知っていた。
私は生きてきた経験から学んでいるはずだ。
美しいものに毒がないわけがないのだ。
その毒は死に至るまで私を苦しめるのだろう。
怖い。怖い。ただ怖い。
ガタガタ震える。汗が噴き出す。ガクガクと足が鳴る。
さくらんぼが、ネズミが、ゆらゆらゆらゆら。
手を出したらおぞましいものが待ち構えているのは知っていた。
ネズミはニタニタと笑う。ただ、ニタニタと笑う。
わかっているのだ。私がそれを欲しがっていると。
欲しいのだ。私は飢えている。
空腹なのだ。飢えているのだ。
私の中にある空いたものを埋めたいのだ。
その欲求は誰にでもあるものだろうと、
そう信じていたいものだが。
そうやって自分は悪くないと言い聞かせて。
あの二人だって、これに勝てやしなかったのだと。
私は悪くない。私は悪くない。
ネズミがそれを見せびらかしに来て何回目か。数える必要もない。
もはや悔しさすら覚えてしまって。
欲しい。欲しいんだ。渇望しているんだ。
寂しいんだ。埋めてくれ。この胃袋に収まるならば。
その小さな果実は私の目を奪って離さない。
ゆらゆらゆらゆら。
苦しい。息が詰まる。首を絞められたように。
飢えが私を苦しめるのか。欲が私を苦しめるのか。
頭を抱える。ネズミ共は儀式のように私を囲む。
目の前には一粒のさくらんぼ。
それに手を出すのは簡単なことだ。
簡単すぎることなのだ。
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