さくらんぼ

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簡単すぎた、ことなのだ。 ネズミたちは一斉に私に飛びかかる。 まだ生きている私の肉に飛びつき、食い掛かる。 獰猛な牙を容赦無く差し込むのだ。 ザクリと荒い音色が幾重も連鎖する。やけに大音量なのは何故なのだろう。 久々の痛みだ。平穏に過ごしてきた私には過度な刺激だ。 残虐な激痛が全身のあちらこちらから。 痛い、などと言う事すら何もかもが許しはしない。 わけもわからず本能に任せ私は叫びをあげた。 私の白い肌に牙が深く深く。骨にまで届くかのように。 ネズミが肉を食いちぎる。引っ張る。抉っている。ぶちぶちと筋の切れる音がする。 血が一斉に噴き出す。 その量を今まで体に収めていたには多すぎたのかもしれないな、と虚ろに思う。 私は深く抉られる。欠陥品になる。 おめでとう。おめでとう。私は欠陥品になった。 血の五月蠅い匂いが鼻に刺さる。鉄錆みたいだ。 自分のものでも不快なものは不快なんだなと。 嗚呼、悲痛だ。叫ぶほかなかった。 理性が崩れたその瞬間を奴らは逃しはしないのだ。 隙間に詰め寄るネズミたちは紛れもなく。 違うんだ。私は意味のない言葉を放る。 何を否定しているのか。否定しないと、認めてしまいそうだったから。 許してくれ。私は詫びを当てもなく投げる。 何に詫びたいのか。少なくともこのネズミ共ではない。 ぐちゃぐちゃと咀嚼の音が薄暗くこだます。 ネズミ達の優雅なディナー。転がる私の肢体。 私の血肉のほとんどがネズミに持っていかれた。 私の肉体は、ネズミ共の一部になる。 つまり君は我々と同じだ、と。 ようこそ ネズミは私を迎え入れた。 私は絶叫の如く泣き喚いた。 これが、×すことの恐怖。 すべての始まりだった
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