第一章

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 病院へ着くと、頭の検査と骨折の有無を調べてもらった。だけど、特に異常はみつからず、私とママはホッと胸を撫で下ろした。  打ち身程度ですんだようで、病院からは一週間分の貼り薬と痛み止めが処方されることになり、私たちは病院の待ち合いに座り、会計の順番を待っていた。  ママがちょうどトイレに立って私が一人になった時に、一人の男の人がジッと私を見つめていることに気がついた。私は、何だろう? 知ってる人かな?とその男性を見返した。でも、全く見覚えのない男性だった。だけど、男性は私から視線を反らそうとしない。私も、忘れてしまっているだけかもしれないと思い、必死に思い出そうとした。  すると、いきなりその男性が「ウワーッ!!」と叫んだかと思うと、頭を抱えてその場にうずくまった。私は咄嗟にその男性に近づき「大丈夫ですか?」と声をかけた。すると、男性は手足を震わせ、目には大粒の涙を浮かべてきた。私は少し怖い気持ちにかられたけど、放ってはおけないと思い、「どこか痛いのですか?」と声をかけた。  しかし、男性は「旅は終わった。」と訳のわからないことを言ってきた。私はオカしい人だと思い、誰かに助けを求めようとした瞬間にその男性が更に 「どこかでお会いしたことがありませんか?」  ともの凄い形相で聞いてきた。私は本格的に怖くなり、とりあえずその男性を椅子に座らせ、近くの看護師に助けを呼んだ。すると、すぐに数人のドクターがかけつけ、わめく男を押さえつけた。タイミングよくママも戻ってきたので、私たちは会計をすませ、病院を後にした。  その男は私の姿がなくなるまで「待って下さい。」だの「離れたくない。」だの訳のわからないことを叫び続けていた。  「柊子、さっきはどうしたの? 誰、あの人?」 「知らないよ。私の目の前でさ、いきなり頭抱え込んで身体震わせて泣き出してさ、もうビックリしちゃった。」 「あの病院は大きな総合病院で、精神科もあるからきっとそこの患者さんだったんでしょ。なんか変なことされなかった?」 「うん、大丈夫。」  その後、お店でランチという気分ではなかったため、ママが家に帰ってホットサンドを作ってくれた。私の好きなトマトとチーズとベーコン入りと、ツナマヨレタス。それから、コンソメスープにデザートに皮が剥かれた巨峰を用意してくれた。
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