第1章

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宮村さんは、廊下であったときとはうって変わって重々しく言い放った。 「ストーカー被害に遭ってるッス。」 久しぶりに相談者が来たと思えば、なかなか深刻な悩みを抱えていた。 さっきは「モテ自慢しないでよ、頼むから。」などと心の中で軽く小バカにしていたが、今考えればひどく失礼だった。  この人も暇じゃないし、知らない人にそんなくだらないことするわけもないのに。  榊さんはそんな私のくだらない考えに気付かずに、軽く頭を掻いている。 「いつからつけられるようになってんの。」 交番にいる警官のような気楽さがある。もしかしたら、以前にもこういう相談を持ち掛けられたことがあるのかもしれない。  「少なくとも俺がやつの存在に気が付いたのは、先週の部活帰りっすね。」 頬に指を軽く当てて、宮村さんは答える。 宮務さんも言っていたように今日は「早めに部活が終わった」ため、一七時半解散だった。 しかし普段は夜遅くまで練習していて、試合前になると二十時に終わることもあるという。 その日も遅くまで練習があり、学校に出たのは十八時半だった。 「ストーカーに気が付いた時間は。」 「だいたい十九時前くらいっすね。その時はジュース飲みながら、帰ってたッス。」 「登下校は電車通学、それとも自転車通学なのか。」 「自転車使いたいんすけど、ここら辺駐輪場なくてね。歩きッスよ。歩き。」 へえ、と驚く。 「家から学校の距離は、近いんですか?」 「ああ、そりゃもうすぐそこッスよ。ここを選んだのも、家から歩きで通える距離だしね。」 宮村さんは、ちょいちょいと窓の方に指をさす。 私を含めたお悩み相談クラブメンバーは、全員他府県からきているため電車通学だった。そのため、そうでない人はむしろ珍しかった。そうなんですかとつぶやく。  ストーカーは、宮村さんが帰る時間を知っていたのだろうか? 榊さんはスマホを取り出し、話のメモをし始める。 机が、窓から差し込む夕日色に染まる。 この明るさを見て、時刻がもう十八時半だとは誰も気づくまい。 しばらく何かを考えた後、彼は答えた。 「ぱっと見、たぶん女ッス。」 「たぶんて、なんでそこあいまいなんだよ。見りゃわかんだろ、見りゃ。」 「ああはい、じゃあ、女ッス。」 女の人か。確かに宮村さんかっこよくて女の子にも優しそうだし、モテるかもな。あこがれる女子もいるだろう。  チャラいけど。
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