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コンコンコン。
月が高くなる頃、誰かが戸を叩く音がして、シャラは地下からローブを羽織り、階段を上がった。
近頃の気候は大分暖かくなり始めたものの、石造りの家はヒヤリとしている。
コンコンコンコン。
一つ階段を上りきった所で、催促するように再び戸が叩かれ、シャラは苛立つ。
家全体は三階建てになっており、叩かれている戸は外から見れば地上一階だが、シャラがいた所からは二つ階段を上らなければならない。
コンコンコンコンコンコン。
片手にはろうそく立てを持ち、空いた方の手で覗き穴を開けると、来客が確認でき、無意識に溜め息を吐く。
馴染みのある人物ではあるが決して喜ばしい間柄ではないからだ。
笑顔なんて浮かばないが、仕方がない。
なんとか表情を整えてから、閂(かんぬき)を外して戸を開けた。
「あら、これはこれはクオレ伯爵。こんなお時間にどうなさったのでしょう?仕上がり日は、今日ではなかった筈ですが?」
「あぁ、リシャラ・シュカ令嬢。君はまさに太陽のような眩い美しさで、私には今何時なのか、それすらわからなくなってしまいそうだよ。今は朝日が昇った頃かい?」
やたら戸を叩いていたのは家臣で、それを押し退け、肩肘を壁に付け、吐きそうな愛の言葉を囁いたのが、クオレ・トリューシ伯爵である。
癖っ毛の黒髪で肌も浅黒く、顎が割れており、背だけが馬鹿でかく、腹が出ている。
服装も香水の趣味も悪い男だ。
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