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「今は丁度、日没を過ぎて3時(さんとき)が過ぎた所でございますわ。人間達も動物達もそろそろ寝支度を始める辺りかと。」
やはり外気は冷たい。
シャラは身震いするが、それを男達に分かるようにはしなかった。
「おお!そうか!いやいや、時間の流れを知る暇もなかった。大変申し訳ない。本当はもっと早くに訪ねようと思っていたのだが、何せ仕事に追われていてね。今だって、これからまた私は行かねばならないのだ。」
憂鬱そうに、盛大な溜め息を落とし、オーバーに振舞ってみせるクオレに、シャラは愛想笑いを返す。
「それでしたら、何も今日でなくても良かったのでは?」
「いやそうはいかない!時間の合間を縫って、僅かでもここに来たかったのだ。リシャラ、君に会いたくて、だよ。」
片目を瞑って飛ばしてくるクオレのハートを避けて、シャラは扉を手に掛けて閉めますよアピールをする。
「それは光栄なことでございますけれど。生憎、私も仕事が溜まっているんですの。クオレ様ももうお仕事に戻られては?お預かりしました革靴の張り替えは、先日お伝えした通り、3日後に取りに来て頂ければ、お渡し出来ますので。」
「相変わらずつれないな、リシャラ。そういう所がまた良いんだが。ところで、私と結婚する気はないかな?」
シャラの冷たい態度に少しも怯まず、クオレは決まり文句のようになった問い掛けをする。これが、シャラの悩みの種でもある。
故に、溜め息を堪えるのに必死だ。
「何度もお断りしている筈です。クオレ伯爵ともあろうお方が、こんな孤児と結婚だなんて、不釣り合いにも程がございます。それに、私は、生涯独身を貫くつもりでございますので。」
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