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「ちょっ、ちょっと待ったぁ!」
その瞬間、少年はがっちりと襟首を掴まれる。踏み出そうとした足が、空中で止まった。
「は、離してください!僕、このこと誰にも話しませんから!」
「ええい、逃がすか!ようやく通りがかった獲物を、みすみす手放すわけがなかろう!」
思いのほか力が強く、少年はダンボール箱の前に引き戻される。
「って、いったい何なんだよ。僕に何の用だ?」
「何の用だと?ふん、愚問を。これを見るがいい!」
少女が、足元にあるダンボール箱をビシッと指差した。汚くみすぼらしいダンボール箱に、手書きの文字が油性ペンで書かれている。
ひるってくだちい。せいべつ、雄。ねんれい、16ちい。せいかく、ひとなつっこくておとなしい。
「…………」
「ドヤァ」
「いや、ドヤァじゃなくて。何これ?」
そう尋ねると、少女は不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「む?何だ、キサマは字が読めないのか。仕方ないな。いいか、『拾ってください。性別、メス。年齢、十六歳。性格、人懐っこくて大人しい』と書いてある」
「いや、僕は字を読める。むしろ、君がちゃんとした日本語書けてないだけだから」
「な、何だと!?」
驚愕の表情を浮かべながら、少女は並んだ文字列を食い入るように見つめる。
「まず、この文字だ。これは『ろ』じゃなくて『る』だから。この最後のクルッてなるとこ、どうして付けちゃったのかな」
「いや、なんとなく可愛いかなーって」
「それからこれ。『さ』が反対になってる。これじゃ『ち』だから」
「おお、これはうっかり」
「それと、この性別のところ。何でこれだけ漢字なの?」
「ふふん、その方が頭よさそうに見えるだろう?」
「いや、この字『メス』じゃなくて『オス』なんだけど」
「な、なにぃ!?違うぞ!私は列記とした女だぞ!」
「だよね?一瞬そういう格好するのが趣味な男の子なのかと思って驚いたよ」
一通り誤字を指摘してから、少年はため息を吐いた。
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