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「まあ、ざっくり言うと前の職場で首を切られてな。やめさせられた」
「リストラか。世知辛い世の中だな」
嫌な時代だなーと思いながら、少年はうんうんと頷く。見たところこの少女は高校生くらいではあるのだが、きっとやむにやまれぬ事情があるのだろう。まあ、だからと言ってそんなことに微塵も興味はないのだが。
「それで雇い主に捨てられ、今はこうして拾ってくれる人を探していたのだ」
「ふーん。けどさ、それなら何で僕に声をかけたの?」
どこからどう見ても、少年は制服に身を包んだ一介の男子高生である。どう考えても、人を雇える立場の人間ではないことは明らかだ。
「いや、この際普通っぽい人なら何でもいいかなって」
「は?」
訳の分からない返答に、少年は首を傾げた。すると、少女は疲れた表情でため息を吐く。そして、思い出すのも辛そうな顔で語りだした。
「実はな、私の前を通りがかったのは、キミが初めてではないのだ」
「うん、まあ、そうだろうね」
「最初に通りがかったのは、二十代後半くらいの男だった。でっぷりと太り、顔を油でギトギトにした男だ。そいつは私を見つけるなり、『行くところがないならウチに来なよハァハァ』と言ってきた」
「うん、完全に危ない人だよね」
「私は全力で逃げた。そして、次に通りかかったのは一人の老人だった。老人は私を見るなり、『マユミ!マユミじゃないか!生きていたんだな!』と言ってきた。どうやら私のことを、亡くなった娘さんと勘違いしたらしい」
「それは、悲しい話だね」
「とりあえず誤解を解いて、その老人と別れた。すると、今度はまた別の老人が現れた。老人は私を見ると、『タロウ!タロウじゃないか!どこに行っていたんだこいつめ!』と言ってきた。どうやら、私のことを逃げ出した飼い犬と勘違いしたらしい」
「……へー」
「とりあえず私が人間だということを説明して、その老人をお家に帰してあげた。すると、またもや別の老人が現れた」
「老人多いな」
「老人は私を見ると、『お主には剣の才がある。ワシの元で伏魔流剣術を学んでみないか?』と言ってきた」
「何者だよその爺さん」
「とりあえず私は老師の元で、伏魔流剣術奥義・斬光絶影を会得してから別れた」
「会得しちゃったのかよ」
「そして、次にやって来た……」
「ストップ」
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